風俗に連れて行かれたけど、ひたすら腕組んでた話
ワイ、風俗に連行される
20代前半の頃転職した。
入社してすぐに歓迎会を企画してくれた。
私は歓迎会というものが嫌いなのだが、自分一人のためにやってくれるようなので、申し訳なさに突き動かされて参加した。
なぜ嫌かというと、歓迎会って結局は既存メンバーの飲み会に着地するからだ。最初だけ興味本位でつつかれて、あとは外野として尽くす。まぁ当たり前なんだろうけど。
当時は人見知りが強く、そのせいでおもろい話もなかなかできなかったから、尚更そうなる傾向は強かったと思う。
そんなわけで、蓋をあけてみたら予想通りの展開だった。
やっぱりな!知ってた!!だから知ってた体にすることにした。
こちらがイニシアチブ持っているけれど、あえて君たちの好きにさせてあげるよ。
こう思っておくのは、精神衛生上すごくよかった。
「明けない夜はない」
そう自分に言い聞かせて、長い長い長い歓迎会という名の試練を耐えた。
そして、やっとお開きになった。やっと帰れるー!
嬉しさを押し殺しつつ先輩たちにお礼を言って帰ろうとしたその時だ。
「おいたん君、これから女の子と遊ばないか」
鮮やかな不意打ちだった。
その魔弾はガードの緩み始めていた私のメンタルを一撃で撃ち沈めた。
余力でなんとか笑顔を貼り付けて振り向くと、ハゲ散らかした髪を整えながら社長がそこに立っていた。
明けない夜はない。しかし、夜を迎えない日だってない。
断れるはずもなく、私は人生初の風俗を経験することになるのである。
社長、先輩、私の3人はそのままタクシーに乗り社長のお気に入りの店に向かった。
夜の色が濃くなった。
蜘蛛の糸が切れた時のカンダタの気持ちがわかった気がした。
人は警戒すると腕を組む
連れてこられたのは、AKB風のコスチュームに身を包んだ女の子がいっぱいいるガールズバー。社長ってこういう趣味なのか。50代既婚男性の性壁に触れてしまい、なんかこう申し訳ない気持ちでいっぱいになった。CD買い込んで選挙権集めてたらやだなって思った。
私たちはカウンター席に通された。
社長と先輩は常連のようだった。彼らと女の子たちはすぐにその場のムードに溶け込んだ。
が
一人だけ置いてけぼりにされて浮いているヤツがいた。
そう、私です。
みんなが楽しく話している輪に入り込めず、どうしていいかわからずオロオロしていた。出された水を誰よりも先に飲み干し、でてきた酒もすぐに飲んでしまう。
キョドリの権化でした。
女友達もいたし彼女もいた。しかも当時は同棲していた。女性と触れ合う機会がなかったわけではない。しかし、店の雰囲気のせいなのかなんなのかわからんが終始キョドッていた。
あまりにも話ができなすぎて、場になじめなすぎて、一人で自己嫌悪大会をしていた。途中から猛烈に貝に転生したいと考え始めた。それが影響して、防衛本能がフル稼動しはじめた。
沈黙&腕組みのコンボである。
社長がいようが関係なかった。なんかもう無理だった。貝になりたかった。
つまらなそうにしていると、それを察して一人の女の子が話しかけてきてくれた。
が
私の腕組みが解かれることはなかった。
話は盛り上がらず、女の子は諦めて社長たちの輪に戻っていった。
ものすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになった。きっと面倒な客の行為ベスト5に入る行為だと思う。やっぱり貝として生まれてくるべきだった。
そこから30分くらいたってようやくお開きになった。
帰ろうとすると女の子の数人から社交辞令で名刺をもらった。
「今日はあまり話ができなかったけど、また遊びにきてくださーい(はーと)」とサインしてある。
私は笑顔を作って受け取り、そのまま帰路についた。
なんで話ができなかったのかを考えながら歩く。
アパートに近づくごとに、彼女への背徳感が強くなった。
途中のコンビニのゴミ箱に名刺を捨てて、彼女が好きなおでんのはんぺんを買って帰った。
きっと私はそういう世界には縁がないんだと思う。
さよなら!